電源を持たないラジオを自作することは電波を身近に感じることができる体験である。ただ、慶應NY学院では放送アンテナからの距離が遠いために公共放送を聞くためにはいくつかの注意点が必要であった。実施した内容をまとめた。
1)ゲルマラジオの基本回路と部品
Fig.1 ゲルマラジオの回路図
主な部品
Fig.2 バリコン (15 ~ 159pF)
Fig.3 フェライトコア芯のコイル
Fig.2 バリコン (15 ~ 159pF)
Fig.3 フェライトコア芯のコイル
Fig.4 ゲルマニウムダイオード(1N34A)
Fig.5 セラミック(圧電)イヤホン
Fig.6 アース
Fig.7 エアーバリコン
VC-1: 20~120pF、VC-2: 20~320pF
2)簡単なゲルマラジオ(GRー1)
本体の組み立ての結果をFig.7と8に示した。放送を聞くためにはアンテナ(被覆導線20m)とアースの使用が必須であった。イヤホンの故障(後述)が多く、交換できるように接続部品を用いた。学校校舎では、放送は蚊が鳴くような小ささであり内容を理解できるレベルではなかったが、自作のラジオでの試聴で生徒の感動は大きかった。一方、学校から東方向で海岸に近い木造家屋内では(ワイヤーアンテナとアースを使用して)明瞭に放送を聞くことができた。
Fig.8a PSボード上に組み立てたゲルマラジオ
Fig. 8b 木板上に組み立てたゲルマラジオ
Fig. 9
ゲルマラジオを試聴
アンテナは導線を戸外におよそ20メートル木に這わせ、アースは地面に埋めた。微かであるが放送が聞こえて生徒は感動した。
3)ループアンテナ付きゲルマラジオ(GR-2)
ワイヤーアンテナに替えてループアンテナを作製し、ニューヨークの送信アンテナからの距離と受信状態を検討した。
ループアンテナは、2枚の紙のパネル(0.75x0.50m)の間にプラスチックスポンジを貼り、これにエナメル線(直径0.455mm、AWG25)を20巻して作製した。
Fig.13 放送アンテナと慶應NY学院付近の地図
ループアンテナは、2枚の紙のパネル(0.75x0.50m)の間にプラスチックスポンジを貼り、これにエナメル線(直径0.455mm、AWG25)を20巻して作製した。
Fig.10 ループアンテナ(ガラ巻)Fig.11 ループアンテナにバリコンとイヤホンを取り付けた。
Fig.12 学校から18km離れたところにあるAM放送の送信アンテナ(High Island)。167mと91.4mの2本のアンテナである。
ループアンテナ付きのゲルマラジオ(GR-2)を用いてアースなしで放送を明瞭に聞くことができる場所は送信アンテナからおよそ10kmぐらいまでで、それより遠い場所(学校を含む)では音量は小さくなる。校舎内では聞こえない。校庭では内容を理解する程度聞き取ることができる。
Fig.13 放送アンテナと慶應NY学院付近の地図
4)ループアンテナ付きゲルマラジオ(GR-3)
ループアンテナの改良を試みた。木枠に裸の銅線を1辺71cmで15巻整列して巻いたものとゲルマラジオを組み合わせた。
Fig. 14 ループアンテナ
Fig.15 ゲルマラジオをループアンテナとカップルさせたループに繋ぐ。
ループアンテナ:裸銅線(0.16φ,AWG18,150ft)、10mmの間隔を開けて15巻。
インダクタンスの計算値:513μH(B. Carterのプログラムを使用)
二連エアーバリコン(Fig.7、最大容量440pF)
ループアンテナ:裸銅線(0.16φ,AWG18,150ft)、10mmの間隔を開けて15巻。
インダクタンスの計算値:513μH(B. Carterのプログラムを使用)
二連エアーバリコン(Fig.7、最大容量440pF)
Fig.16
Fig.17
これまで作製したゲルマラジオの中では最も受信状態が良い。受信できたラジオ局は、WCBS(880kHz)とWINS(1010kHz)の2局。
5)イヤホンの不具合
ゲルマラジオの組み立てで一番多い問題はセラミックイヤホンである。最初に購入した7個のうち6個は受信不能で、残る1個も受信できるときとできない時があった。
Fig.18 裏蓋を開いた状態。二つ見える
半田の一つが浮いている。
これが故障の原因だ。この修理は難しい。
半田の一つが浮いている。
これが故障の原因だ。この修理は難しい。
Fig.19 セラミック振動板側セラミックの
ハンダが取れているが、これは振動板
を持ち上げた時に外れたもの。
ハンダが取れているが、これは振動板
を持ち上げた時に外れたもの。
Fig.20 イヤホンと同様にピエゾ素子をを使ったブザーを購入し、これがイヤホンとして転用できることを確認した。ただし音量が少し小さい。
ウェブサイトの情報では、粗悪品質のイヤホンについての同様なトラブルの報告例が多く見られる。写真の製品は台湾製で、日本製のものは故障が少ないという報告も見られた。
まとめ
ワイヤーアンテナとアースをしっかり準備すれば、校舎内で放送を聞くことは可能である。ただ、アンテナとアースを常時設置しておくことは安全上(落雷など)、美観上に問題がありできない。ループアンテナは建物の外では’効果的であるが、コンクリート製の校舎内では効果がない。放送局の送信アンテナが近いか、送信出力が大きい環境にある学校、あるいは木造校舎の学校では受信がもっと容易であろう。