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森谷東平 |
ラパヌイ島(イースター島)島民に古代ネイティブアメリカンの遺伝子があるー NYタイムズとBBC(2020.7.9)の記事 |
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ラパヌイ島(イースター島)は巨石像モアイの神秘で名高い。 私事であるが、私は2001年にラパヌイ島に7日間滞在して島中を巡ったことがあり、以来この島に関する事柄に強い関心を持っていた。この島はアジアから渡ってきたポリネシア人の島であるが、南米とも交流があったのではないかという説が以前からあった。近年、同島民の遺伝子解析によりその交流の歴史が裏付けられたという。 最初に「南米交流説」を唱えたのはヘイエンダールというノールウェー人である。彼がその根拠としたのは、ラパヌイ島に残る遺跡である。下の写真は、破壊されたモアイの頭部分とモアイが立っていた台座(アフ)である。この石組みは精巧にできていて、南米インカの遺跡の石組みとよく似ている。このことから、ヘイエンダールは、インカの技術を持ったネイティブアメリカンがラパヌイ島に来てこれを建造した、という仮説を提唱した。 しかし、南米とラパヌイ島は数千キロメートルも離れていて、現在でもプロペラ機で片道5時間陸地のない海原を飛ばなければならない。彼の着想は途方も無いものとされた。ヘイエンダールは自説の可能性を確かめようと、筏の船「コンチキ号」で南米からラパヌイ島まで南太平洋を渡るという冒険をした(1947年)。彼の冒険は成功したが、その後彼の説を支持する人はほとんどいなかった。 今回の新聞に掲載された発見の話に移ろう。今回、科学者はラパヌイ島民と南米のネイティブアメリカン800人の遺伝子を解析した。その結果、両者に共通の祖先があること、その祖先であるポリネシア人とネイティブアメリカン(現在のコロンビアの民族)が出会ったのは西暦1200年ごろである、ということがわかったという。ただし、ポリネシア人にはネイティブアメリカンの遺伝子が確認されたが、ポリネシア人の遺伝子を持つネイティブアメリカンは現時点で見つかっていない。このことから両者の交流について二つの説が考えられた。 最初の仮説(仮説1)は、航海術に長けたポリネシア人(マルケサス島民)が南米まで航海してネイティブアメリカンと交流し、その子孫がマルケサス島に戻りさらにその子孫がラパヌイ島に渡った、というものだ。 第2の仮説(仮説2)は、ネイティブアメリカンがポリネシアに航海してきたというものでヘイエンダールの説に近い。これは、南米側に西暦1200年ごろのポリネシア人の遺伝子が未だ見出されていないこと、ヘイエンダールが示したように海流の関係で航海術がそれほどでもないネイティブアメリカンでも可能であろう、というものだ。 なお、ポリネシアと古代ネイティブアメリカンの間に見られる共通の文化として、モアイのような巨石像に加えて、農作物の呼び名に共通点があるという。例としてサツマイモはエクアドルでKumala、ポリネシアではCumalと呼ばれるそうだ。 このように、最近のDNA解析の進歩は太古からの人類の歴史の解明に目覚ましい活躍をしている。最近読んだ書物(アダム・ラザフォード、ゲノムが語る人類全史)によれば、我々現代人のDNAの中に、ホモ・サピエンス以外のヒト族、ネアンデルタール人、デニソワ人など、の痕跡が残っているとのことである。 (2020.7.9 森谷東平) |